もしも数学教師がITベンチャーに入社したら

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学校におけるICT導入のポイント

 

 

5年ほど前から学校にICTツールが多く導入されるようになってきた。その背景と課題を整理し、導入のポイントを示していく。

 

 

ICTブームの背景と問題

 

かつて、学校では教科書や参考書の書物で学習指導が行われ、インターネットを介して外の情報にアクセスする文化がなかった。もちろん、情報の授業やパソコン室でインターネットにアクセスすることは可能だったが、日々の授業との関連性は薄かった。

 

それが、近年のICTツールの導入によって一変した。生徒は授業中にiPadなどの端末から学校外の情報にアクセスできる。手元にある紙の教材の他に、ネット上にある様々な情報へのアクセスが可能となった。

 

さらに、教育用の動画コンテンツや、双方向の授業を可能にするICTツールのサービスの普及によって、旧来の紙の教材だけで行う一方向の授業の形態を一変させた。

 

しかし、学校にICTが導入されるにあたって問題も生じている。

 

・生徒がゲームアプリを校内で利用する

・教員側がツールをどう活用すればよいか分からない

・そもそも導入開始時に何のソフト、端末が必要か分からない

 

のような様々な問題が生じている。

 

 

私は、前職では学校ICT担当の教員を経験し、現在では各学校にICT導入支援を行っている。このような経験と、各学校への聞き取り内容から、学校ICT導入の課題を整理する。

 

 

とりあえず目的なしで導入してみたが…

 

ICT導入が上手くいかない一番の原因は「目的なしのツール導入」である。とりあえず学校にツールを導入してみたものの、教員は何をどう使っていいか分からず、生徒もどこまでの利用範囲で使っていいのか分からない。

 

 上手く運用できている学校は、目的がはっきりしている。

 

・先生と生徒の双方向の授業を実現したい

・保護者との接点を多くしたい

・生徒の学習量を可視化し、指導に活かしたい

・生徒が情報を主体的に取得できる環境を構築したい

・家庭学習を補強したい

 

 

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学習管理ツール Studyplus

https://for-school.studyplus.co.jp

 

目的を絞って導入している学校は、教員にも目的や導入理念が浸透している。そのため、軸がぶれずに多彩な運用方法が生み出され、精緻化していく。

 

 

 

導入が上手くいかない原因とは?

 

上記のような目的をはっきりさせることは前提だが、その他にも導入が上手くいっている学校とそうでない学校に決定的な違いがある。それは、運用ルーティーンを構築しているかどうかだ。

 

例えば、動画コンテンツを導入したものの、その視聴を生徒や先生に自由に丸投げしていると上手くいかない。もともと、自分で進んで勉強しない生徒が、進んで勉強動画を見るとは限らない。先生が動画単元を指定し、その進捗までトレースしてあげる必要がある。

 

また、教員に運用を全て自由裁量にするのも危険である。もともとは自分の教え方に自信を持っていた先生が、いきなり自分の授業を動画コンテンツに切り替えられるとは限らない。多くの先生は動画で学習をした経験がないのだ。

 

私も経験したことだが、授業で動画コンテンツを利用するには動画の予習が必要になってくる。自分が一度も観たことのない学習動画を生徒に勧めるわけにはいかない。どの単元がどれくらいの難易度で構成されているかを確認する必要がある。

 

運用が上手くいってるある学校の一例です。

その学校では教科担当とクラス担任の役割をハッキリさせて、校内全体の運用ルーティーンを構築している。教科担当が動画の宿題を課し、クラス担任が朝終礼で進捗を確認する。もちろん、教科の専門ではないクラス担任の確認なので、教科の質問に答えることはできない。しかし、どこまでやったかの進捗を、生徒にとって身近なクラス担任がすることによって生徒はやる気になる。教科の不明点が多かった場合はクラス担任は教科担任に情報を引き継ぐ。学期末には、保護者面談で学習状況をクラス担任から報告する。

 

このようなルーティーンが構築された学校では導入時における先生のICT活用が上手くいく。

先生全員がICTを体験し、使えるようになっていく。その上で先生の創造的な活用が生み出されていっている。

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インターネット学習教材 すらら

https://surala.jp

 

一方、授業支援ツールの利用においては、各教科の先生に運用を委ねられることが多い。それぞれの教科に内容や指導の特性があるからかもしれない。だが、運用が上手くいっている学校は、それぞれの教科での利用方法を共有する。先生同士で勉強会や情報共有会を開いて、教科の壁を越えて指導方法の研究をする。

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授業支援ツール  ロイロノート SCHOOL

https://n.loilo.tv/ja/

 

 

 

ICT先進校は「生徒主体」の運用

 

ICT先進校は、運用方法がそれぞれ異なるものの、決まって「生徒主体」の運用を強調する。

 

先生がICTを使えるようになることがゴールではない。生徒がICTを使えるようになり、主体的に学習する姿勢や習慣を身に付けさせることが重要だ。

 

それに生徒の方がICTツールの運用には長けている場合が多い。ICT先進校では、生徒のICT委員会を設けて運用設計を一任しており、文化祭や生徒総会などの行事へどのようにツールを組み込むかを任せている。

 

 

 

まとめ

 

ICT導入の成功のポイントは以下の3つである。

 

①目的を明確にして導入する

②運用ルーティーンを構築する

③生徒主体の運用を目指す

 

 

11/4-5に紀尾井カンファレンス、麹町中学校で行われた「Edvation × Summit 2018」。その中の「学内ICT担当に聞く、教育ICT整備と活用のコツ」のパネルディスカッションはとても参考になりました。そのレポートもご参照ください。↓